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人間には生命維持に必要なシステム=免疫システムが、生まれながらに備わっています。このシステムは免疫細胞の活躍によって維持されています。免疫細胞には様々な役割を持った多数の種類がありそれぞれが連携して、常に外敵の侵入やがん細胞などの脅威から身体を守っています。
免疫細胞は血液の白血球の中に存在しています。
役割から大別すると、まず細菌や感染症から身体を守る即時的な働きをする「顆粒球」。怪我や感染で出てくる膿は、顆粒球と細菌の格闘の末の死骸でもあります。
そして日々異常細胞(=身体にとって敵となる細胞)を監視しやっつける、パトロール隊&兵隊的な存在の「リンパ球」。
このリンパ球の約70%は兵隊の中心的存在である「T細胞」が占めており、続いて抗体を作る役割を担う「B細胞」、異常細胞を問答無用にやっつける精鋭部隊の「NK細胞」がそれぞれ10%程度ずつ構成しています。
さらにがん細胞を狙って叩くNKT細胞、γδT細胞がほんの数%存在することが知られています。
そしてもう一つが「単球」。これは、血管から飛び出してアメーバ状の「マクロファージ」となり、細菌などの異物を細胞内に取り込み消化して、その一部を細胞の表面に提示します(抗原提示)。マクロファージ以上の働きを持つ「樹状細胞」とともに、がんなどの異常細胞の存在を兵隊であるT細胞たちに知らせたりこれが敵であることを教育をする、いわば教育司令塔のような役割を担っています。
リンパ球にはウイルスなど病原体が進入したときに4時間以内に反応する「自然免疫」と、数日の反応時間を必要とする「適応免疫」の2種類があります。自然免疫ではNK細胞、NKT細胞、γδT細胞が、適応免疫ではT細胞が働きます。
適応免疫の代表的な応用例は、はしかウイルスなどのワクチン療法です。これは、はしかワクチンだけに反応するごく少数のT細胞と抗体産生B細胞を誘導して大量に増殖させ、はしかウイルスを攻撃する体制を作りだすものです。その一部は記憶T細胞として長く体内に残ります。ワクチン接種の後はしかウイルスに感染した時には、この記憶T細胞がすばやく反応して大量に増え、はしかウイルス感染からからだを守ります。こうしたT細胞の働きを適応免疫といいます。
T細胞はこのように特定の敵だけに反応する1:1の関係を作るため、この関係ができるまでにしばし時間がかかります。
一方、自然免疫の代表格NK細胞は、ウイルス感染細胞やがん細胞など身体の敵となる細胞に出会えばすぐに攻撃します。これは生まれながらに備わったNK細胞の重要な働きです。
自然免疫と適応免疫が相互に補完しながら、免疫システムが良いコンディションで正確に機能することにより、私たちの身体は健康な状態でいられるのです。
人の身体は約60兆個の細胞でできており、日々新陳代謝を繰り返すことで成長し、生命が維持されています。細胞が生まれ変わる過程の中で、成人で約5000個のがん細胞の芽が毎日生み出されていると考えられていますが、すぐにそれががんとして発症することはなく、人によってはがんを一生発症しない人もいます。これは免疫細胞の働きによるところが大きいと考えられています。
身体中をパトロールしてがん細胞の芽を見つけ次第、問答無用で消していくのがリンパ球の仲間であるNK細胞の役割です。健康な人のNK細胞はよく働くので、生まれたがん細胞の芽を端から攻撃していきます。初動で粉々に破壊されたがん細胞の芽は、樹状細胞と呼ばれる細胞教育係によって処理(貧食 どんしょく)され、「こういう異常細胞を見つけたら消してしまうように」とT細胞に伝えます。この情報を受け取ったT細胞は分裂を繰り返すことにより、同種の細胞に対する攻撃力を備えた兵隊をどんどん増強して、同じパターンの異常細胞を見つけるとただちに攻撃できるよう力を備えます。健康体の人の細胞は、このようにそれぞれの細胞が役割を分担、全うしながら、強固な防衛システムを維持しています。
ここで大切なのは、初動のNK細胞の役割です。NK細胞が熱心にパトロールをして、おかしな細胞を見つけたら直ちに消す、という初動攻撃が生きてこその連携システムです。ところがこのNK細胞は、加齢やストレスに非常に影響されやすく、その数を減らしたり攻撃力が極めて弱くなったりすることで、初動の役割が全うできなくなることがあります。NK細胞の力が弱まると処理されない異常細胞が残って行くことになります。これががん発症の大きなきっかけとなります。
NK細胞の力が弱くなり、がん細胞の芽が残りやすくなると、樹状細胞(教育司令係)がせっせとT細胞を教育・兵力増強して、なんとか食い止めようとがんばります。このがんばっている期間、免疫力とがん細胞の攻防がギリギリ釣り合っているような状態は、人により5年から10年と言われています。この間生きのびたがん細胞は、じわじわと免疫に対しての抵抗性を身につけて静かに成長していきます。
そしてある時、NK細胞もT細胞も攻撃力が追いつかなくなる時が来ます。がん細胞はいきなり急激な増殖を始めます。CTスキャンなどでがんらしき影などを見つけることができるようになるのはこのタイミングからで、1cmほどの大きさに成長したがん細胞は約10億個に増えています。しかもこの時点でがん細胞は、様々な方法で作り出した免疫が効かなくなる(免疫を抑制する)防御壁で自らを囲いながら、さらに増殖をしていきます。
がんと診断されたときはがんの勢いがとても強く、逆に免疫力は非常に弱まっています。健康な時とは力関係がまるで逆になっています。このような状態になってから、がん治療が始まるわけです。
免疫力が落ちて、がん細胞が力をつけて行く流れががん発症のメカニズムなら、治療はその逆をたどっていくことが有効です。免疫に対して強固なバリアを張った勢いのあるがん細胞と、弱まってしまった免疫力。このバランスをまずはかろうじて釣り合っていた時の状態まで戻していくことが大切です。
一つは抗がん剤や放射線、外科手術といったがんの標準的な治療で、勢いづいたがん細胞の力を、免疫がコントロールできていた時の状態まで削ぎ落として弱めること。がん細胞の力そのものを弱めることで、免疫システムが再び効果を発揮し始めます。特に抗がん剤でガンの防御壁が低くなったり、一部が壊れたりすることで、免疫細胞はこの壁を乗り越えやすくなり攻撃力が上がると考えられています。
一方、抗がん剤は全般的に増殖スピードが速い細胞を標的にしています。従ってがん細胞を破壊するのと同時に、他の正常な細胞分裂が活発なところ、骨髄、肝臓、腎臓、粘膜、毛根、爪、皮膚といった部分の生育にも大きなダメージを与えてしまいます。骨髄でつくられる免疫細胞もこの例にもれず機能を阻害されるため、免疫力が低下してしまいます。
がん治療で大切なことは、弱まっている免疫力がさらに低下するのを防ぎ、むしろ免疫力を強く押し上げて行くことです。
免疫力を高める方法の前に、なぜ免疫力が落ちてがん細胞を封じ込めなくなるのか、明らかになっている原因から確認しましょう。
免疫力を高めるにはすなわち、これらの原因要素を取り除いた生活を心がければ良いといえます。
加齢は避けられませんが、日々の生活習慣を改めることで、年齢に応じた、あるいはそれ以上の免疫力を維持できるよう心がけたいものです。
さらには、免疫力を高める究極の方法として免疫療法を取り入れることも非常に有効です。特に、がん細胞の芽とあれば問答無用で攻撃する、初動部隊「NK(ナチュラルキラー)細胞」を増やしてその能力を高める(活性化する)ことは、がんになりにくい身体づくりにはとても重要になります。
たとえば外科手術により患部を摘出したり、放射線や抗がん剤でがん細胞が縮小してCTなどで影が確認できないまでになった、といって安心できないのが、がんの厄介なところです。
手術中に血液内に流れ込んだりするがん細胞が残っていたり、消えたと思ったがん細胞が何かのきっかけでまた成長してしまう可能性があります。再発予防のためには、こうした怪しいがん細胞に対して攻撃をする力を、自身の中に備えることが重要です。常に免疫細胞が優勢に活動できるような力を保持していくよう、免疫力を高める生活習慣が望まれるとともに、定期的に免疫力を確認して補強していくことも、再発予防には有効です。